看護師が適切に対処することで睡眠薬を使用することなく入眠へ導くことも可能

患者によって不眠の原因やパターンは異なりますが、大きく分けると以下の5つに分類することができます。看護師が原因を的確に把握し、対処することにより、睡眠薬を使用することなく入眠に導くこともできます。

原因によって睡眠薬が異なります

また睡眠薬の使用が必要な場合でも、副作用を生じさせることなく良好な睡眠を得ることができます。以下に不眠の5つの原因とその対応方法をまとめてみました。

精神生理性不眠
不眠の人に見られる最も多い原因で、入院患者の多くがこれにあてはまります。職場の人間関係、転職・転勤、家族の病気、失恋、受験などが心理的なストレスとなり、一時的に不眠になることは多くの人が経験します。ストレスを受けると交感神経系が活性化して脳が緊張状態となり、不眠が起こります。

ストレスが解消すれば、多くの人は以前のように眠れるようになりますが、神経質な人はストレスが消失しても、また眠れなくなるのではと先走って心配し、眠ろうとすればするほど眠れなくなる状態に陥ります。これを「精神生理性不眠」と言います。

入院するとなれば、自分の病気への心配や仕事、経済的な不安に加えて、通常とはまったく異なる環境に身を置かれることが緊張感を引き起こし、その結果、多くの患者さんがこの精神生理不眠を経験します。

このような場合、入眠前になるべく患者さんがリラックスできる状態をつくることが大切です。例えば、寝る前に足浴をしながら話を聞いてあげたり、マッサージをしたりすることで患者さんの緊張を緩和してあげます。また、寝る前に音楽を利く、睡眠グッズをおくなど、その患者さんが自宅で行っていた入眠前の講堂をできるだけ実施できるようにすることも重要です。

それでもなお不眠の改善が見られない場合には、デパスやレンドルミンなどの短時間型の睡眠薬の少量投与が有効です。

薬原性不眠
ステロイドホルモン、インターフェロン、パーキンソン病治療薬、気管支拡張薬、一部の降圧薬は不眠を引き起こします。看護師はどのような薬剤が不眠を引き起こすことがあるのかを把握しておく必要があります。さらに、担当医師に薬剤性の不眠の可能性について確認しておくことも必要です。

なるべく不眠を生じない薬剤に変更することが対処の基本となりますが、医療的必要性から変更が困難な場合もあります。また、コーヒー、お茶、コーラ等に含まれるカフェイン、タバコのニコチン、アルコールなどの嗜好品も不眠の原因となりますので、これらについても患者さんに説明しておくことが求められます。

身体疾患に伴う不眠
慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息による咳、呼吸困難は不眠の原因となります。そのほか、心不全、消化器疾患による腹痛や嘔吐、がんによる疼痛、アトピー性皮膚炎に伴うかゆみ、糖尿病や前立腺肥大による夜間頻尿なども不眠を生じさせます。

身体疾患が原因で不眠が生じている場合は、まず原因となる身体疾患の治療やケアを行って身体的苦痛を軽減することが優先されます。症状に対しても同じです。例えば、「痛みが強くて眠れない」「痒みが気になって眠れない」という場合、痛みや痒みを取り除かなければ当然眠れないということになります。

また、呼吸器症状が原因で不眠の場合は、体位変換やポジショニングで緩和されることもあります。それでも不眠に苦しむ患者さんには、場合によって睡眠薬が投与されますが、重い呼吸器疾患の患者さんへの投与には慎重さが必要です。

精神疾患による不眠
PTSD(心的外傷後ストレス障害)、パニック障害、全般性不安障害、気分障害(躁うつ病)などは不眠を生じさせます。なかでもうつ病の患者さんは不眠症状を訴えることが多く、入眠障害、中途覚醒、早朝覚性など全ての不眠パターンを生じますが、特に早朝覚性は生じやすい症状となっています。

多くの身体疾患患者は自分の病気や将来についての不安が重なり、うつ状態となっていることが多くみられます。うつ病では、持続的な不眠に加えて、食欲低下、気分の憂鬱な感じ、元気のなさなどの症状を生じます。また自殺の危険も伴います。そのような患者さんに気がついた場合には、医師に報告しましょう。

精神障害に伴う不眠は重度のことが多く、エリミン、サイレース、ダルメート、ドラールなどの中間型や長時間型の睡眠薬をしっかりと使用する必要があります。また睡眠薬に加えて、うつ病なら抗うつ薬、統合失調症なら抗精神病薬など病態にあった薬剤の投与が必要となります。

生理的原因による不眠
騒音、光、不快な湿度などの環境の変化で生じるものです。この場合、看護師によるケアが大きな役割を果たします。生理的眠気に関連するメラトニンの血中濃度は、睡眠前から増加し、夜間にその分泌がピークとなり、目からの光刺激によって減少してしまいます。

そので、寝床につく1〜2時間前はメラトニン分泌の影響が少ない50ルクス程度に照明を落とし、寝るときには10ルクス以下がよいとされています。完全な暗闇では、むしろ心理的な不安感が生じるために睡眠深度が低下します。また、患者の安全確保のためにも、物の形と色がある程度わかるくらいの明るさがちょうどいいとされています。

夜間覚醒は、夜間の照明や音が原因であることが多いので、夜勤者は巡回時の懐中電灯の照らし方や歩くときの靴音などに配慮する必要があります。寝るための適切な室温は、夏で26℃程度、冬は16℃程度がよいとされ、病室の適切な温度設定も患者への不眠の対処法として必要です。